3年前、婆はここに越してきたんだけど、たまたま入り口で話しかけてくれて、すぐ上の部屋に住んでる方だと知ったの。
この地ではいまだに唯一のお知り合い。
濃密なおつきあいってわけじゃなかったけど、婆の実家でなったミカンや爺の実家で育てた野菜とかおすそ分けしたりしてね。
必ずもっといいものをお返しくださって、かえって恐縮するの。
リンゴもらったからこれは是非にってね。
「実は施設に入るからここは1月で出るの。
いろいろ頑張ってきたけど、一人ではもうできそうもないから決断しました。」
明るくそう言われて思いもかけずショックだった。
こんなにショックを受ける自分にすごく驚いたわ。
なんで、たまーに仲良くお話するご近所さんにこんな気持ちになるのって。
でもちゃんと最後は笑顔で見送らなきゃって、バレンタインギフトのおいしそうなチョコとメッセージカード用意してたの。
でも渡す日が来なきゃいいと思ってた。
婆は在宅だから、行こうと思えばいつでも会いに行けたんだけど、行くのがこわかった。
1月31日の夜もまだお部屋に電気がついてたのを見たときは心底ほっとしたわ。
もしかしたら気が変わられたんじゃないかしら・・・
2月1日、2日と上で人の気配を感じて、でも引っ越しだったらこんな静かなはずないし、と打ち消してみたり。
・・・そろそろ挨拶に来られるのかな、と覚悟した今日、ポストに一生懸命書いたハガキが投函されてたわ。
ずっと家にいたのにインターホンを押すこともなく。
どうして、と思うのと同時に、以前
「いつも(私の部屋が)静かだから、呼び鈴押していいか迷っちゃうの」と言ってたことを思い出してた。
元々遠くのご出身で、息子さん一家が近くに住んでるから越してきて、もっと一緒におしゃべりしたいみたいだったのに、そういうの苦手な私が距離を置いてたのを敏感に察知されてたんだろうな。
節度を持った方だったから、負担になるようなことはなかったはずなのに、どうしてもっと気安く来てくださいと言わなかったのか後悔しかない。
外からカーテンのなくなった窓を見上げて、まだ家財がいくつか残っているのが見えた。
ポストにはまだ鍵もかかったまま。
爺が今日、息子さんらしき人が階段を行き来するのを見たらしい。
本人には会えなくても、せめてチョコとメッセージは渡したい。
ポストにお渡ししたいものがあるのでお寄りください、とメモを入れたわ。
どうか渡せますように。
無事にお渡しできるようお祈りしてるわ。
寂しいけれど、最後もしっかりとご自分で決断されて、婆の鑑のようなお婆様だわ
657婆さんのようなご近所さんがいて、嬉しかったと思うわ